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鈍き眼光

──油断した。
あと一発くらいならと引金を引いたコンマ数秒前の自分を呪った。
頬を伝う冷や汗がしたたり落ちるよりも速く、一縷の判断を誤った私に真珠色の柔皮がふわりと被さる。
触るだけならブヨブヨしているそれは、まるで高速で振り下ろされる特大の槌のように、
モンスターというよりも人間の断末魔を思わせる世にも奇妙な叫びを発して襲い掛かってきた。
私は足元の固い土を抉り、発生する風圧を利用して覆い被さろうとする影の外に這い出た。
次の瞬間、白い大槌が打ち付けられる。
硬い氷原を派手に転がり体中擦り傷だらけだがどうにか最悪の事態は逃れた。
体勢を起こし顔を上げた束の間、フルフルと目が合った気がした。
背筋に悪寒が走る。私はどうやら覚悟を迫られているようだ。
暗がりを好むが故、遥か太古に退化したはずの目。
それは確かに私を見据え、眼光を閃かし、静かにゆっくりと口を開く。
闇からの解放を待つ電流だけが、私の未来を知っていた──。
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魚竜よ、踊れ

私は静かに練っていた体の気を、大剣使いの渾身の溜め斬りの如く腰に集中し、
針にかかった獲物に自分の全体重をのせ対岸に向かって一気に竿を振り下ろした。
キラキラと水しぶきを上げて瑠璃色の鱗が宙を舞う。
太陽を遮る巨大な影は私の頭上を通り過ぎ、まるで雨のように滴を降らせていった。
生い茂る雑木林の中に大きな音を立てて打ち付けられると、密林に迷い込んだ嵐の如く次々と木々をなぎ倒した。
地響きを鳴らしながらピチピチと跳ね暴れる魚竜ガノトトスは、その反動を利用して備えた二本の足で今日に起き上がり、尾を翻して振り返ると自身を地上に打ち上げた犯人、つまり私に向かって逆撃のブレスを一閃した。
すでにボーンシューターを展開していた私は、歩を進め軸を僅かにずらして回避し、限りなくガノトトスの正面に近い位置から貫通弾を撃ち放った。
貫通弾の一閃は頭を貫き腹部まで達する。
尾にまで響こうかという弾の激痛に耐えかねたのか、距離を詰めようと地面に腹を打ち付け、
泳ぐように這いずってきた。
ガノトトスの這いずりは、ガンナーにとっては一番の悪手だが、適正距離を保っていれば回避は容易。
攻撃動作の前に側面に回っていた私には当たるはずもなかった。
ガノトトスは現状の形勢を立て直そうと水面に向かって走り出した。
このままでは分が悪いと判断したのだろう。水中ならば自分の土俵だ。
私はすかさずバレルロールを回し、弾丸を換装するとヒレ目掛けて射撃した。
着弾を確認すると貫通弾を再装填し“定位置”に構えてスコープをのぞいた。
砂と血で汚れた体を清めるようにして水面に舞い戻ったガノトトスであったが、
自分の背中から放たれた不意の爆音に驚き跳ね上がると再び宙を舞った。
二度目の雨はにわかに赤い。
それはまさしく、着水前に撃ちこまれた徹甲榴弾がガノトトスの安息を奪った瞬間であった──。
ゲリョスが盗んだ大変なモノ

辺りを閃光が包む。
私は「来る」と解っていながらも目をくらまし、ふらふらと白昼の星空を浮かべた。
ゲリョスの閃光はハンターが放る閃光玉よりも強力で、人間の瞼などいとも簡単に貫通する。
特殊なトサカを嘴の突起に打ち付けてることで、トサカに含まれる鉱物を破壊し意図的に発光
させ、シールドレスガンナーの私のように防ぐ術のないハンターに星空を覗かせるのだ。目論みが成功すると得意げに翼を仰ぎ喜ぶ姿は、なんとなく憎らしく可愛くもある。
このトサカの鉱物には希少なライトクリスタルを含んでいる場合もあり、実に私の狙いはそこにあった。
そんな白昼夢を見ていた私だったが、ふらふらと体を揺らせて微睡む隙にゲリョスはすかさず嘴でポーチをこじ開け盗みを働かせた。
雄のゲリョスは雌への求愛に鉱石を用いるらしく、採掘をするハンターから掠め取る習慣がある。
それを知っている私はここに来るまでに採掘などしていない(むしろ今がその道中)ので、
好みの宝石は入っているはずはない。故に彼は、目に付いたモノを奪ったようだった。
頭を小突かれた痛みと衝撃で尻餅をついた私は、星空の呪縛から解き放たれた。その場ですぐポーチを確認してみると、
どうやら「アレ」が見当たらない。ポーチをひっくり返すが分厚いアレが出てこない。よりによって大事なアレを盗まれるとは…。
「掻き集めたお金でようやく買ったのに…。まだ全部読んでないのに…。」
先ほど見た白昼夢などどこ吹く風。
負の感情に囚われた私は、後から考えれば自分でも凄まじいと思えるエイミングで以て、
怒涛の勢いで通常弾を、とにかくトサカを撃ちまくった。
その連射に耐えかねてトサカが弾け飛ぶが、構わずトリガーを引き続けた。
嘴と額が穴だらけになったゲリョスはついに呻き声を上げながらゆっくりと地に伏した。
だが、私の連射は止まらない。当然だ、これはゲリョス得意の死に真似なのだ。
頭上から変わらず降り注ぐ通常弾の雨。
自慢のモノ真似に引っかからないと知ったゲリョスは、翼を翻して跳ね起き血走った目で睨みをきかせた。
そして私の間合いに踏み込んで距離を詰めると、尻尾をしならせ旋回してきた。
鋭い鞭のように打ち付けるそれに当たればひとたまりもないが、同時に肉質の柔らかい弱点でもある。
私は冷静に攻撃を捌き、狙いを頭から目の前で空を切る尻尾に変えて表情も変えずに撃ち続けた。
ハリの実が弾ける度に、興奮状態で腫れ上がった尻尾から鮮血が溢れだし、大地を赤く染めていく。
今の私の怒りに勝るものなどなにもない。再度、ゲリョスは断末魔を上げてひれ伏した。
また死に真似だろうと手を緩めることをしなかったが、勝利のファンファーレが私の脳内に鳴り響いた。
…どうやら死に真似を続けていたら、本当に力尽きてしまったらしい。
なんとも間抜けでゲリョスらしい最期である。
落ち着きを取り戻し我に返った私は、ボーンシューターを畳んで腰に差していたペティを手に取った。
戦利品を無造作にポーチに放り込んて一息着くと、突然の空しさに襲われた。
「嗚呼…。私の調合書……。」
そして後日、
ギルドの検閲を経て渡された頭部破壊の報酬は「鉄鉱石2個」であった──。
毒霧の代償

強烈な爆音とともに辺りに悪臭が立ち込める。
密林の澄んだ空気に割って入るかのようにそれは毒々しい色を放っていた。
私はある程度予測をつけていたので、あらかじめ距離をとり呼吸を止めていたが、
鼻ををつんざく悪臭は神経を侵すには十分だった。
幸い、薬や食料を摂ることはできそうだがすんなり喉を通ってくれるかは疑わしい。
私は軽く舌を打ちながら次弾をリロードし、反撃の機会を伺ったが、
黄土色の毒霧と土埃で標的を見失ってしまった。
一時の静寂に緊張が走る。
どうやら“彼女”は、この毒霧を目くらましに利用しようという算段のようだ。
「自由奔放に暴れまわるだけの猿ではないのだな」と思わず感心させられる。
私は静かに目を閉じてボーンシューターを構えなおし、意識をバレルの先端に集中させ
その時が来るのを待つ。
再び開眼した刹那、その時はやってきた。
死角からの確かな殺気を感じた私は、迷うことなくトリガーを引いた。
鋭く尖った鉤爪が頬をかすめる。後ずさりはしたが、かすり傷で済んだ。
だが彼女の方は、今し方撃ち抜かれた鬣を両手で押さえ、
目を真っ赤にして再び毒霧を放っている。
目くらましだった毒霧と、同時に舞った土埃の微妙な変化を見逃さなかった私の一撃が、
彼女の尖爪より僅かに速かったようだ。
私は手の甲で頬の鮮血を拭い、そのまま親指を下に突出しながら舌を出し、
挑発のポーズをとって見せた──。
その異名は「先生」

人(ハンター)は彼を「先生」と呼ぶ。
怪鳥イャンクックは、鳥竜種に属する小型の飛竜であるが、
新米のハンターが初めて相対する事となる言わば飛竜の登竜門だ。
飛竜の攻撃行動を学ぶ上で、彼の指導なくしては他の飛竜と渡り合うことは難しい。
故に先生の愛称で呼ばれ、可愛らしい外見も含め親しまれている。
旧世代のハンターのその全てが彼の教え子と言っても過言ではないだろう。
私も、もちろん生徒。
初めてまみえた時は、当たり判定の広い尻尾で叩かれ、ノーモーションの突進に撥ねられ、
乱れ撃ちの火炎液に髪を焦がされたものだ。
まず攻撃パターンを観察・把握し、体ではなく頭で考える立ち回りを意識することの大事さを知り、
狩猟を達成したときの喜び、ひいてはモンスターハンターの楽しさを教わったのである。
あなたももし生徒であるならば、たまには恩師に顔を見せに行ってはどうだろうか?
もちろん新入生のあなたのことも、先生は手厳しくそして手厚く迎えてくれることだろう。
余談だがイャンクックの素材から生産できるイャンクック砲シリーズは、
ある名高い巨龍砲のベースとなっている。
それはもしかしたら、一部のハンターのウワサとなっている「全盛期のイャンクック伝説」と
何か関連があるのかもしれない・・・。